Dreaming de 人魚姫 


 昔々、海の中に人魚姫(Cast:寛美)がおりました。
 人魚姫は、海辺の王宮で暮らす美しい王子様(Cast:飛竜)が大好きで、いつもいつも海の中から彼の姿を眺めていました。
 何せ海辺の王国なので、移動は大抵船。っつー訳で王子様が外出するときはいつも人魚姫はこっそり船の後を付いて行ってたりしました。
 何せ海辺の王宮なので、当然王宮の濠の水は海から引いています。っつー訳でこっそり濠の中まで忍び込んで王子様を眺めていたりしました。
 王子様が海辺に出ているときは、何度思わず海の中に引き摺り込んでやろうと思ったことか。でもそこまでやるとストーカーだと思いつつ、人魚姫はいつもうっとりしながら王子様をモノにするチャンスを虎視眈々と狙っておりました。
    ♪好きだあーったのよーあーなたー 胸のおーくでずーっとー
     必ずーわたしきーっとー あなたを振り向かせーるー♪
 ・・・いつから『まちぶせ』はこんなに怖い歌になったのでしょう・・・。


 そんなある日、王子様の乗った船が嵐に巻き込まれてしまいます。そして嵐の海に投げ出された王子様を、追っ駆けていた人魚姫は助けることになりました。王子様と密着出来て嬉し恥ずかしの人魚姫ですが、よく考えたら自分って下半身は魚。海の上に上がることは出来ません。っつか肺呼吸出来ません一応半分魚なので。
 (このまま連れて帰ってしまおうかしら。)一瞬そう考えたのですが、普通の人間にそんなことしたら普通に水死します。そんなことになったら元も子もありません。
 それで王子様を浜辺に引き揚げると、仕方なく人魚姫はその場を立ち去ります。
 よくよく考えたらそれって放置なんですが、王子様を抱きかかえたことで舞い上がってしまっている人魚姫、そんなことには気付きませんでした。


 浜辺で気を失っていた王子様は、丁度そこをお散歩していたお姫様(Cast:紅凰)に介抱されて目を覚まします。このお姫様に助けられたのだと思い込んだ王子様は、彼女に惚れ込んでしまいます。いや、それも間違ってはいないのですが、人間のお姫様が嵐の海から自分を引き揚げられると思ってるのでしょうか王子様。そんな男っぷりのいい人が好みだったのでしょうか王子様・・・。


 さて、王子様の事情を知らない人魚姫。今まで辛うじて残っていた理性の糸が、王子様と急接近したことでぷっつりと切れてしまいます。
 王子様に逢いたくて、王子様の傍にいたくて、矢も盾もたまらず彼女は、異端の怪しい魔女(Cast:劉公主)のところへと出掛けて行きます。
 魔女の研究所は、薄暗い繁みの奥。何故か『おさかな天国』がエンドレスで掛かっていて、ますます怪しさ倍増です。
     ♪サカナサカナサカナー サカナーをー食べーるとー
      アタマアタマアタマー アタマーがーよくーなるー♪
 「・・・何か、共食いっぽくて嫌な歌よねこれ。」人魚姫は思いっきり顔をしかめます。
 「そうですか?」にっこりと余裕の笑みを見せる魔女。肩に羽織っている白衣が更に怪しいです。
 相手にしても勝ち目がないと思った人魚姫、すぐに本題を切り出しました。
 「あのさ、人間になりたいんだけど、都合のいい薬ってないの?」
 白衣姿の魔女は怪訝そうな顔。「どうして人間なんかになりたいんですか?人魚の方が苦労もなくて楽しいではありませんか。」
 「・・・じゃ、弱肉強食の世界に嫌気がさしたのよっ!」素直じゃないです人魚姫。それにしても弱肉強食とは・・・華麗な姿をして、一体どんなサバイバルな生活を送っているのでしょうか。
 しかし全てお見通しの魔女、怪しげに微笑みます。「弱肉強食ですか・・・人間の世界も余り変わらないと思うのですが、まあいいでしょう。では、この薬をどうぞ。その尾が割れて脚になり、えら呼吸が肺呼吸になって水上生活が可能になる画期的な薬です。」
 魔女が差し出したのは、どろりとしたドドメ色の液体の入った見るからに怪しげな小瓶でした。
 さすがの人魚姫もたじろぎますが、王子様への想いはそんなもんじゃ止められません。「こ、これを飲めば人間になれるのね。」きゅぽん、と蓋を取って、一気飲みをしようとする人魚姫。
 しかし、魔女はそれを遮って言いました。「その代わり、注意点があります。」
 「何よ、どんな副作用があるの?」
 「僕の作った薬は完璧です。」変なところで自信満々な魔女は、ぴしっと二本の指を差し出して言いました。「ただし、その薬には開発費が掛かってるんです。だからその担保として、あなたのその声を頂きます。」
 担保に声?と首を捻りつつ、この魔女に逆らうのも怖いので黙って人魚姫は頷きます。
 彼女を見て、うふふと微笑み魔女は続けました。「もう一つ。王子様が別の女性と結ばれてしまったら、あなたは水の泡になってしまいます。いいですね。」
 頷いた人魚姫は、一瞬遅れて顔を真っ赤にしながら怒鳴ります。「な、なななな・・・何なのよそれ!」
 「せっかくの苦労も水の泡、と掛けてみたのですが。我ながら気の利いた洒落だと思うのですが駄目ですか?」
 「そ、そうじゃなくて・・・何で王子が別の女で恋愛が水の泡で・・・。」気が動転して言葉になっていません人魚姫。そんな彼女を微笑ましげに見詰めながら、魔女は囁きます。「では、その薬はいりませんか?」
 薬の小瓶を取ろうとする魔女の手をぱしんと叩き、人魚姫は言いました。「わかったわよ!あんたっていい性格よね!?」
 そしてまるでリポDでも飲むように、人魚姫は腰に手を当ててドドメ色の薬を一気飲みしてしまいます。思わず拍手をする魔女。
 それから魔女は、思い出したように付け加えます。「効果はおよそ5分で表れます。一度人間になってしまったらもう戻れないので、従って二度とえら呼吸も出来ません。溺れる前に水面に辿り着くようにして下さいね。」
 早く言いなさいよ!と毒づきつつ、人魚姫は大慌てで水面を目指しました。
     ♪サカナサカナサカナー サカナーをー食べーるとー
       カラダカラダカラダー カラダーにーいいーのさー♪


 さて、無事に地上に辿り着いた人魚姫。しかし始めての陸上に身体はなかなか慣れず、喉は焼け付くように痛みます。そして薬によって尾を裂かれて作られた足は、踏み出すたびに刺すように痛みます。それでも頑張る人魚姫、しかし肝心なことを忘れていました。
 (・・・あたし、そう言えば裸じゃないの!)
 こんな姿で王子様に見られる訳にもいかないと、慌てふためく人魚姫ですが、まだ上手く動けません。そして岩陰に身を隠そうとしているときに、どんぴしゃり運悪く王子様がやって来てしまいました。
 いきなり海辺でもがいている全裸の女の子と直面し、さすがの王子様も硬直してしまいます。人魚姫、穴があったら入りたいとはまさにこのこと。
 しかし、どこかずれている王子様はすぐに気を取り直し、女の子の裸から目を反らしつつ尋ねます。「・・・どうかしたのか?」
 (どうしたもこうしたも・・・。)首をぶんぶん振って、言葉にならないもどかしさに苛立ちつつ精一杯人魚姫は主張します。けれど、当然それが王子様に通用する訳もありません。しばらく首を捻っていた王子様は、やがて切り出しました。「・・・取り敢えず、城がすぐそこなんで、来るか?そんな格好と言う訳には行かないだろう。」
 「・・・・・・っ!」つまりいきなりお家にお呼ばれしたと言うことに気付き、真っ赤になりながらも為す術もなく人魚姫は頷きます。
 王子様、黙って上着を脱ぎばさりと人魚姫に掛けると、手を差し伸べます。さすが王子様、エスコートし慣れてます。「おいで。」
 真っ赤な顔で王子様の手を取った人魚姫、しかしやはりまだ上手く歩けません。悪戦苦闘するその姿を見た王子様、何といきなり人魚姫をお姫様だっこで抱え上げてしまいます。「大丈夫か、怪我でもしているのか。」
 (・・・今なら死ねる。死んでも惜しくない。)鼻血の出そうな顔を押さえつつ、人魚姫はぽーっと考えました。


 「お前、口が利けないのか。」王子様は言いました。
 見たこともないような綺麗なドレスを着せられて、どきまぎしつつ人魚姫は頷きます。
 王子様はしばらく考え込むような仕草をした後、ぱっと顔を上げて言います。「・・・わかった。お前、海賊にでもやられたんだろう。身包み剥がれて海に投げ込まれたりでもしたのか、可哀想に。」
 確かに、そうとでも思わなければ説明付きません。取り敢えず、これ幸いと人魚姫は頷きました。しっかしそれにしても豪華なお部屋です。天井からはシャンデリアなんか掛かってます。
 ふと、王子様はにっこりと笑顔を見せました。「俺も、以前海で溺れたことがあるんだ。そのとき助けてもらえたから、こうして生きているんだが。」
 (知ってる知ってる知ってる!っつか助けたのあたし!)ぶんぶんと頷いて見せる人魚姫。しかし王子様は、意外なことを言い出しました。「そのときの恩人の姫君と、婚約してな。もうじき式を挙げるんだ。」
 王子様の嬉しそうな顔につられて笑顔を浮かべた人魚姫は、しかし思わず硬直します。(・・・は?)
 『あなたが好きな王子様が別の女性と結ばれてしまったら、あなたは水の泡になってしまいます。いいですね。』
 (・・・もしかして、いきなりあたし水の泡決定?)人魚姫は茫然自失、目の前が真っ暗になるのを感じました。
 何にも知らない王子様は、無邪気にトドメを刺します。「もうじき姫君が、婚礼の準備の為に到着するんだ。まだ城内に誰も知り合いはいないので寂しいだろうから、よかったら仲良くしてやって欲しい。」
 (マジ?)人魚姫の耳に、王子様の言葉は届いたのかどうなのか。


     ♪あーなたに逢ーえたそーれだけでよかーった 世界にー光ーが満ーちーた
      夢でー逢えーるだーけでよかったのに
      愛されたいと願ってしまーった 世界がー表情を変ーえーた
      世の果てでは空と海が混じるー♪
 柄にもなくテラスで物思いに耽る人魚姫。口が利けるなら『アゲハ蝶』でも口ずさみたい心境です。
 婚礼の準備を嬉々としながら進める王子様を見てると、悲しいやら妬ましいやら、それでも上機嫌な王子様の笑顔が嬉しかったりして自分でも訳がわからなくなってしまいました。更にやって来たお姫様はお姫様で、王子様ほどではないものの物凄く美人でしかもとんでもなく優しくて、張り合うどころかむしろさすが自分が見込んだ男の選んだ女!と妙に誇らしくなってしまったりしてしまいます。
 (これじゃ駄目なのよ!このままじゃあたしもあたしの苦労も水の泡なのよ!)魔女のつまらない洒落が今更になって空しく響きます。
 どうしようかと思案に暮れる人魚姫、ふとひどく耳に馴染んだ声を聞き、テラスの下を見下ろします。
 「人魚姫、人魚姫。」テラスの下に広がる海面には、人魚姫のお姉さん達(Cast:鈴華・大花)が顔を覗かせていました。
 あんた達も人魚姫でしょ、と心の中で突っ込みつつ、人魚姫は懐かしいお姉さん達を見下ろします。
 「人魚姫、これをあげる。」優しい性格の鈴華お姉さんは、手を伸ばしました。その手には、物騒なことにナイフが握られています。顔をしかめる人魚姫に、きつい性格の大花お姉さんが叱り付けます。「あんたってばほんっと向こう見ずなんだから!そもそも人魚と人間で上手くいくはずないでしょ!今ならまだ間に合うんだから何とかして来なさい!」
 (何とかって・・・どうすればいいのよ。)今更になって途方に暮れる人魚姫に、鈴華お姉さんが優しく言いました。「あのね、タイホアってばあなたのことを心配して、あの魔女のところまで行って来て掛け合って来てくれたのよ。」
 さすがにそれにはびっくりです。何だかんだ言って口ではキツイことを言いながら、いつも一番人魚姫に甘いのはそう言えば大花お姉さんでした。
 「このナイフであの王子様を殺したら、あなたは人魚に戻れるんだって。水の泡にならずにすむんだって。ね、そうしようよ。」
 「これ、あたしの髪の毛と引き換えなんだからね!有意義に使わないと怒るわよ!?」もう既にかんかんに怒った声で大花お姉さんはそう言います。言われて初めて人魚姫は、大花お姉さんの長かった髪がばっさり短くなっていることに気が付きました。
 (あの悪徳魔女め。あたしの声だけじゃなしにこいつの髪まで奪ったって訳!?さーらーにー王子の命まで寄越せっつーの!?)むしろあの魔女に殺意を覚える人魚姫でしたが、大花お姉さんにナイフを押し付けられ、仕方なく彼女は受け取りました。
 「いい?躊躇うんじゃないわよ!結婚式の前に殺すのよ、いいわね!?」何度も何度も念を押しながら、お姉さん達は一先ず海に帰って行きました。


 (・・・ったく、あの魔女め何て趣味してんのよ。)半ば諦めの境地で、ぼんやり人魚姫はナイフを見詰めます。(殺せるくらいなら、そもそもあんなドドメ色の薬飲んでまで人間にはならないっつーの。それとも何、『天城越え』でもやれって?)
    ♪誰かに 盗られるぅ くぅらぁいぃならぁ  あなたを殺してぇ いいぃですかぁ〜♪
 (アホらし。いっそ王子の婚約者殺した方が、まだ気が楽よね。)・・・それじゃ火サスの世界です。
 「・・・どうしたの、こんなところで。」不意に背後から声を掛けられ、慌てて後ろ手にナイフを隠しつつ、人魚姫は振り向きました。そこには王子様の婚約者のお姫様が立っています。笑顔を繕いつつ小首を傾げてみせる人魚姫に、お姫様は心配そうな表情を見せます。「顔色が悪いみたいよ。大丈夫?中に入った方がよいのではないかしら。」
 (ごめんなさい。あたしが悪かったです。)何となく罪悪感を覚えながら、人魚姫はうろうろと視線を彷徨わせました。
 するとお姫様は、おもむろに意外なことを言い出しました。「あのね、実はわたし、国に帰ろうと思うの。」
 きょとんと顔を上げた人魚姫は、思いっきり怪訝そうな顔をしました。(は?)
 「それでね、後のことをあなたに任せておこうと思って。あなたなら信頼出来るし。」
 何の信頼だよ、と後ろ手のナイフを弄びつつ人魚姫は耳を傾けました。少し悲しそうな顔をして、お姫様は言いました。「わたしも、あの王子様は大好きなんだけど、だから帰ろうと思って。きっとあの人に言っても反対するだろうから、こっそりあなたにだけ知らせておこうと思ったのよ。」
 (いやそりゃ当たり前だと思うんだけど・・・事情説明してよ事情。)身振り手振りで意思を伝えようとすると、察してくれたのかお姫様は説明してくれました。「実はね、この国とわたしの国は今冷戦中なの。それに、わたしも王子様もどちらも兄弟がいないから、つまりどちらかが国を捨てなければいけないのよ。わたしはそれでもいいと思ってこの国に来たんだけど、それを略奪と判断した私の国の宰相が軍隊を整えているらしくて――。」
 (ちょっと待って下さいこれ童話じゃないんですか随分と世知辛い展開に突っ込んでるんですけど!)人魚姫、混乱する頭で必死に突っ込みます。
 駄目駄目、童話でもリアリティーを追求するのが今時風なんです。
 「・・・どちらにしても、このままでは戦争になってしまうの。それはわたしもあの人も望まないことだわ。だからわたし、国に帰ろうと・・・。」そこまで言い出して、泣き出してしまうお姫様。まだ混乱から抜け出してはいないものの、気持ちもわからないではないので思わず慰めてしまいます。
 と、そのとき城内が俄かに慌しくなりました。顔を上げるお姫様と人魚姫に、駆け寄って来た侍女が叫びます。「た、大変です!王子様が!」
 (もう今度は何なのよ!)泣きたいような気持ちで人魚姫は頭をがりがり掻きました。


 侍女によると、お姫様との結婚を何としても許してもらいたかった王子様は今日の未明、無謀にも単身で敵国に乗り込んで行ったらしいのです。当然王子様は捕らえられ、向こうの国の使者から王子様の身柄を拘束したと言う声明文と、お姫様の返還を請求する要望書が届けられたとのこと。
 人魚姫、目一杯心の中で毒づきます。(馬鹿よ!あの王子絶対大馬鹿!何て無茶するのよ!)
 当然その後は大混乱です。城内は完全に浮き足立ってしまうし、王子様の親衛隊は勝手に奪還の為に出兵準備を始めてしまうし、重臣達の会議は訳のわからないところで同道巡りになってしまうし、お姫様は泣き出して自害しかねない勢い。王子様への愛で理性をぶっ放してしまっていたものの、根がクールな人魚姫は必死にお姫様を宥めつつ、決心しました。
 (決めた。王子を取り返して、何が何でも幸せになってもらう!水の泡だろうか海の藻屑だろうが何でも来いよ!)
 人魚姫はお姉さん達に渡されたナイフを手に、王子様奪還大作戦を決行することにしました――。
    ♪これからー一緒にー これからー一緒にー 殴りにー行こうかー♪


To be continue…(続いてどうする)

あとがき
・・・馬鹿です。大馬鹿です。死んでます。つかもはや『人魚姫』どころか、童話ですらあり得ません。
何でだろうな、何となく思い付いてやってみたら思いの外に長くなってしまって、訳わかんなくなってしまいましたってなノリかな。っつか始めの方と最後だと文体どころか雰囲気すら全然違ってるしね(哀愁)。
こんなんですが、面白がって頂けたら幸いです・・・さ、幸いです・・・。

ち、ちなみに最後の「To be continue...」はあくまでギャグです。続きません!すみません・・・。
                          2002.4.14  かとりせんこ。拝

→モドル




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